経歴
2007年 | 千葉大学医学部卒業、医師免許取得 |
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2012年 | 東京大学大学院公共健康医学専攻修了(公衆衛生学修士) |
2018年 | 千葉大学大学院修了(医学博士) |
資格
■取材を始める前に
産業医へのインタビュー第2回は、様々な業種での経験をもつ吉村氏。事業内容によって変わる産業医の役割を、これまでの実体験をもとに聞いてみた。特にメンタルヘルスの課題への対応と予防策に関して、産業医の置かれるポジションの重要性が浮き彫りになった。※この記事を読むのにかかる時間:約5分
―― 産業医というお仕事に興味を持たれた経緯や背景、医師としてのキャリア、産業医としてこれまで担当された企業さまの業種とかをお聞かせいただければと思います。
吉村 元々精神科医になった理由としては、疾患と治療そのものに興味がありました。けれども惹きつけられた理由としては、精神科では患者さんは精神症状がなくなり、体の調子が良くなっても、それだけでは回復したことにはならないと考える点です。
例えば学生さんだったら復学する、家事をやっている方だったらもう一度家事能力を発揮することなど、本人の「役割」がありますよね。本人の役割をきちんと回復しないと、その人の治療は終了しないんです。
内科や外科に比べ、精神科では比較的この考え方に重きをおきます。産業現場を例にとると、働いている人の役割とは仕事をきちんと遂行することです。仕事をすることで、本来の役割を果たせ、そこを支援することに精神科医としても興味を持ちました。
―― 本来の役割に復帰させることが産業医の役割というわけですね。
吉村 診察室の中では、多くの場合患者さんのお話から職場の状況を推測することしかできません。でも、本人がどういう職場で働いているか、どういう立場なのか、部下・上司との関係、そういったことも含めてアセスメントした上で、本人の役割を発揮するようにするのが、産業医の仕事になのです。
わたしの場合、現場の産業医として患者さんの働いている様子を拝見したり、回復した患者さんを会社としてどうやって受け入れたらいいのかを考えてゆくのは面白いと思っています。自然に、自分の精神科診療の延長線上に産業保健への関心が出てきたので、産業医を始めましたね。
産業医の資格を取ったのは医者になって3年目です。そして、その後非常勤の嘱託産業医をやり始めました。精神科医をやりながら、産業医のキャリアも同時に進めてきた経緯があります。
―― 産業医になられて改めて感じた役割についてお聞きします。臨床医とは当然異なる部分も多いと思いますが、具体的に産業医になって感じたことはなんでしょうか。
吉村 比較的ベテランの先生が診療をひと通りやられて、セカンドキャリアとして産業医になるというケースは結構ありますが、同じ世代で産業医をやっている人が少なかった。
ですので、現場に立つまで何するかよく分からなかったんです。やってみて分かったことは、本人が職場に適応できるか、そして本人が持っている能力を発揮させることの手助けを会社の立場で実現するのが産業医の仕事ということ。産業医がうまく機能すると、会社も本人もお互いに役割を果たせてハッピーなんです。
産業医は一人の医師でもあり、同時に会社にも雇用されている立場という、両方の視点があると思います。本人も仕事の役割を果たせずに困っており、同時に従業員のパフォーマンスが落ちていて組織である会社が困っているという現実があります。そこをつなげるのが産業医なのだと強く感じます。
―― これまで担当されてきた企業さまの業種、業態を教えていただけますでしょうか。
吉村 印象に残っているのは国外に設置するプラントを設計するエンジニアリング会社です。100名に満たない比較的小さな事業所で、専門職の方々が多くいらっしゃるところでした。ほとんどが男性で、国外への出張が多いので労務管理が難しいところもありましたが、従業員が多くないので、何とか目配りができたと思います。1人が欠けると非常に大きな損失になりえる職場でした。
―― 組織の大小にかかわらず、1人の損失は業務に大きな穴を空けますし、企業としても大きなコスト増になりますよね。
吉村 そうですね。ですので、いかにスムーズに復職してもらうかが大切だと思います。いわゆる採用・教育費用などのコストもあるので、いかに長く、パフォーマンス高く働いていけるかを、かなり丁寧にやっていた会社でした。そのため、産業医としては非常にやりやすかった。個別のケースを丁寧に扱っていくところから、全体の組織づくりへという順番で、自分の仕事ができたと思います。
その他は大きな製造業、工場ですね。郡部に位置する大きな工場でして従業員は数千人規模。そこで5年ほど産業医をやりました。全国に工場がある大きな企業ですので、遠方に転勤される方などのケアが必要になってきます。
―― 単身赴任となると生活習慣の乱れも出てきそうですね。
吉村 そうですね。家族の元を離れており、本人への家族の支援が難しくなります。いま、製造業も厳しい状況なので、残業が制限され、夕方早い時間に退社を促されると、一人で自宅でお酒を飲む機会が増えるんですね。そうすると、一人で寂しいこともありアルコールの量が増えてしまう。
それで仕事のパフォーマンスが落ち、アルコールへ依存する傾向になってしまう。他に娯楽がないというのもあり、環境により陥る罠がそれぞれ違うことを学びました。
ただ、会社が大きかったので、産業保健の仕組みづくりに対して比較的積極的だったんです。事業所全体として、例えばストレスチェックの制度をどう導入したらいいか、どういう管理監督者研修をしたらメンタルヘルス不調の発生予防ができるのだろうかなど、人事労務担当者とよく議論しました。
―― 規模の異なる環境で産業医をされてきたと思いますが、抱える課題もそれぞれなのでしょうか。
吉村 臨床医が一人一人に合わせて診断・治療を行うように、産業医も業種や事業所の特性に合わせてどのように健康づくりしたらいいか考えるのが基本です。そういう意味では、いろいろな職種での産業保健の現場経験は非常に勉強になりました。
―― 差し支えなければ、ほかの事例も教えていただけますでしょうか。
ほかには医療現場ですね。具体的には病院の産業医をしていましたが、これもまた全然違いますね。ひとつは、医療専門職の人は、本人も周囲も「自分の健康は自分で守る」という考え方がかなり強い。いま、働き方改革でも医師・看護師に議論の関心が向かっていますが、全般に労務管理の優先順位が高くないと思います。
―― 医療専門職なのに労務管理が薄い…どういうことですか?
吉村 医師・看護師も悪気があるわけではありません。患者さんのことを第一に考えている方々が大多数です。医者や看護師は、雇用契約で働いているという認識より、自分の持っているスキルを目の前の患者さんにどう提供するか。こういう職業倫理で働いています。
特に医師は自分がどういった労働契約になっているのか、自分の業務に賃金が発生していのか、などにあまり頓着しない。そうなってくると、産業保健という概念が馴染みにくいですね。それをどうやって理解してもらうか、から始める必要があり、かなりやりがいのある職場でした。
――企業と産業医のマッチングが大事だと思います。そこで、企業側はこういったポイントで産業医を探すべき、というものがあれば教えてください。
吉村 産業医の有資格者は約9万人とされていますが、業界では「ペーパー産業医」という言葉もあります。資格は持っているけど実働したことがない産業医は結構いらっしゃいます。特に、若手の産業医だと経験が少なく、現場のリスクや課題を見つけることが難しいとよく聞きます。そういう意味で、産業医に何をして欲しいかを具体的に企業側から言ってもらったほうが良いときもあると思います。
―― うちの課題はこれ、と言ってもらっちゃうということですね。
吉村 そうです。相談の仕方としては「こういうことを産業医として役割を発揮してほしいんだけれど、それはできますか」という感じですかね。
―― 休職復職に関してのご意見をお聞かせください。
吉村 休職した人が会社に戻ってくるときに、もう業務に戻れる水準にあるのかという判断が大きい。もちろん、復職した後に再発予防をしていく、業務指示を出す際の注意事項を職場に対して説明する必要もあります。どういう配慮をしたら再発を防止できるか、労務上の配慮についてのコメントも重要な仕事です。
―― 産業医としての関わり方も、多岐に渡りますね。
吉村 やることは多いですが、結局は会社内に仕組みを作りながら従業員1人1人をどうやって支援していくかに集約されます。これは臨床医の感覚に近いと思っていて、1対1の診療とか治療とかとほぼ同じです。
―― 従業員1人との対話が基本とのことですが、当然会社側とのコミュニケーションも発生すると思います。コミュニケーションを円滑に進められる産業医とは、どういう人材なのでしょうか。
吉村 その会社の従業員を、どうしたいのかを考えられる産業医じゃないといけないと思います。従業員を長く会社で雇用していき、本人にできるとこは伸ばして、できないとこは補う…長い付き合いをしていくという現実と覚悟を、産業医側も会社側も自覚する必要があります。そこがズレたままだと産業医と事業所の相互の理解にはとても時間がかかると思います。
例えば「もうこの人はパフォーマンスが低いから、うちの会社に合ってないんじゃないか」と敬遠され、暗に退職を望んでしまっている状況ですと、本人の健康で長期の勤務を支援する産業医の役割とズレてしまいます。
産業医はあくまで医師です。従業員がどういう環境の中で、会社のどの部署で適応できるのかを見極め支援していきます。現在の部署が難しければ他の部署も視野に入れながら、この職場で働き続けられるか、役割を果たせるかということを念頭に、時に背中を押します。そこに産業医と会社側の共通意識があると、協働態勢・仲間という感覚になり、結果的に問題の解決に向かうと思いますね。その時にこそ、産業医が面白いと感じると思います。
■取材を終えて
吉村氏からのコメントで印象的だったのは「産業医は橋渡し役である」ということだ。従業員が本来持っているパフォーマンスを発揮させることが、結果として企業の健康経営につながる。この考え方を体系的に実行できるのが、優秀な産業医と言えるだろう。そして、業種と規模で職場の労務リスクは大きく変わる。現場の課題にしっかり対応できる産業医の存在が、企業に欠かせないことを再認識した。
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